60余年の歴史と伝統。足立学園高等学校柔道部は、都内でも有数の名門として知られている。部員を指導する先生たちも、柔道を知り尽くしたスペシャリスト揃い。その練習は想像以上にハードで、部員たちの眼差しも真剣そのものだ。
東京23区の最北端に位置する足立区。その足立区の中心街ともいえる北千住に足立学園はある。足立学園は北千住駅の東口に広がる旭町商店街のちょうど真ん中あたりに位置し、駅から2分程度という好立地だ。全国に数ある高校の中でも「商店街のど真ん中」という立地は、非常に珍しいのではないだろうか。商店街の規模は大きく、飲食店に衣料店、各種の食材店などがずらりと並ぶ。
ちなみに商店街には「学園通り」という、足立学園に面した通りがあることからもわかるとおり、スポーツや学業の実績と相まって地元でこの高校を知らない人はいない。地元の人に見守られ、地域に密着している点も、足立学園の特徴だといえるだろう。
足立学園は進学校として名高い学校である。学校は中等部と高等学校の2部制で、中等部は中学受験の対象校としても有名だ。さらにスポーツも盛んで、サッカー部、野球部、バスケットボール部、レスリング部、卓球部、テニス部、バレーボール部、陸上競技部といった定番種目はもちろんのこと、アメリカンフットボール部、山岳部、ゴルフ部、アーチェリー部といった、高校では珍しい部活もある。また、今回紹介する柔道部をはじめ、剣道部、空手道部など武道系の部活も充実している。
校門をくぐると、いきなりコンクリートのグラウンドが目に入る。その規模は小さく「サッカーや野球などの屋外スポーツはどこでやるのだろう?」という疑問が当然湧き上がるが、屋外の部活……例えば、サッカーなら近くの荒川河川敷のグラウンド、野球は三郷のグラウンド(学校専用のマイクロバスで移動)といったように、別の場所にある専用グラウンドを使うことでそれは解消されている。広く土地を確保したり、拡張するのが困難な東京23区内の学校ならではの事情だろう。
今回紹介する柔道部は、創立60年の名門にして古豪である。部員は高等学校25人、中等部20人。東京都大会団体優勝、全国選手権出場、個人選では全国総体準優勝、国体優勝、全日本体重別講道館杯入賞、さらに国際大会金メダルなど、これまで輝かしい実績を残してきた。最近でも、3月の川村杯(全国規模で開催している筑波大学の主催試合)で、個人戦の73kg級で渡部竜巳選手が準優勝、81kg級で河野雄司選手が優勝を果たすなど、すでに全開モードである。
練習には高等学校部だけではなく、中等部の生徒やOB、出稽古の人なども一緒に稽古に精を出すこともある。この日も、かわいらしい小学生が2人稽古に参加し、真剣な眼差しで稽古に励んでいた。
この柔道部のコーチを務めるのが、若干28歳の小室宏二先生。自身もこの柔道部の出身であり、全日本柔道連盟66kg級強化指定A選手でもあった、現役の柔道家でもある。さらに柔術にも精通しており、プロ柔術の試合や総合格闘技の試合にも精力的に出場する格闘家でもある。ちなみに組み技系格闘技の大会「CONTENDERS」への出場経験も豊富で、あの山本“KID”徳郁選手との対戦や、矢野卓見選手から一本勝ちを収めたこともあり、格闘技ファンからも注目されている存在だ。
「僕は部員たちに『試合で勝て!』とは言わない。もちろん結果は大事ですけど、負けても一向に構わないと思っている」と小室先生は自身の指導哲学について語る。「勝ち負けの部分よりも、正しい精神を持った子供を育成することを優先したい。この世界は明と暗の世界。輝ける子もいればそうでない子もいる。そういった現実で傷つかないためにも、まずは正しいメンタリティを養ってやることが重要です」そう話す小室先生の傍には、常に部員たちがやってきては、何事か相談したり、技術の指南を乞うたりしてゆく。部員たちは柔道の指導者と同時に「よき相談役」として小室先生と接しているようだ。「僕自身、彼らを単なる教え子ではなく、切磋琢磨し合い、一緒に技術や精神を高め合ってゆく仲間だと思っています」。
指導者としての目標を訊いてみると、「とりあえずは足立学園を今以上に柔道の名門として有名にしたい。それも全国区に名を轟かせるような」と力強く語ってくれた。
格闘家、全日本柔道連盟のサポートスタッフ、柔道の指導者、そして部員たちのよきアニキ、と様々な顔を持つ小室先生。今後、名門の足立学園柔道部をどう率いていくのかが楽しみだ。
予想していたことだが、練習はかなり激しい。投げの練習の際には、その衝撃で地面が激しく上下するほどである。その振動で写真が何度もブレてしまった。ときおり柔道部監督の徳原勉先生の激しいゲキが飛び、それに応える生徒たちの真剣さで、息苦しいほどの緊張感が漂う。
そして気になったのが初夏にもかかわらず部室の四隅に焚かれるストーブ。なんのためかと訊くと「近日中に試合がある選手の減量のため」とのこと。こういった状態で延々と激しい練習は続いていく。実戦さながらの組み合いや投げ。その間もずっと地面は大きく上下動を繰り返している。「汗をかく」といったレベルではなく、「汗を吹き飛ばす」といった表現の方が正しいかもしれない。過去の輝かしい戦績は、こういった激しい練習に裏打ちされたものだと、改めて感じた。
午後3時30分あたりから開始された練習は、日も暮れた夜7時にやっと終了した。もちろん彼らの足下にも及ばないが、取材を行う我々も、見ているだけで戦っている気分になった。そしてこの柔道の名門校を通じて、柔道の奥深さを垣間見たような気がした。
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関矢くん(主将・3年生)
高等学校の部員25名、中等部の生徒20人という大所帯なので、全員をまとめるのが大変です。でも、相談事を持ちかけられたり、技の指南などを行ったりするのは楽しいです。主将としてこころがけていることは、悩んでいる人間に積極的に声をかけ、部員同士のトラブルなどに目を配ること。部を離れても、校内のいじめなんかは許さない。また、練習がハードになってくると雰囲気も沈みがちになってくるので、僕が率先して、もっと明るくしていきたいと思っています。
部員たちが声を揃えて目標に掲げるのが「全国大会優勝」だ。高校柔道界の最頂点のタイトル、その道は容易ではないが、彼らのハードな練習を目の当たりにすると、決して届かぬ目標ではないと思えてくる。事実、先日行われた関東大会の東京都予選会では、あの国士舘の柔道部を破る快挙を成し遂げた。その濃密でハードな練習による自信の表れか、部員のモチベーションは非常に高く、名門としてのプライドも感じる。悲願の全国大会制覇、ぜひとも達成して欲しい。