
作陽高等学校のある岡山県津山市は、「さくらの城下町」として知られる桜の名所だが、この日は初夏とあって、桜の代わりに新緑が街全体に溢れていた。ほどよい規模の山々に囲まれ、大小さまざまな川の清流が流れる…とても日本的な風景の街だ。 今回の目的地である作陽高校も、目の前に川が流れ、周囲に緑が生い茂る、自然豊かな環境の中にあった。


このサッカー部の歴史は実にドラマに満ち溢れている。クラブ創立は昭和45年。今からは想像もつかないが、当初は「どうしようもなく弱かった」という。最初の4年間はもちろんタイトルなし。しかし、先代の木村清初代サッカー部長が奮起し、設立6年目にして県総体準優勝、10年目で全国大会ベスト8(初出場での快挙)という偉業を達成していく。全国に名が轟き渡った作陽サッカー部は、以来、県総体や県予選、新人戦などのタイトルを次々と獲得し、第80回全国高校サッカー選手権大会でも堂々のベスト8入り。一躍、県内のみならず全国的なサッカーの強豪校として知られるようになる。また、オランダや韓国のプロコーチを招聘したり、オランダやスペイン、ハンガリーへ遠征を行うなど、さらなる強化にも積極的だ。

野村先生が確立した指導法であり、同時に作陽サッカーを支えているのが「作陽メソッド」という指導理論。これは、「サッカーをさまざまな視点から細分化し、パーツ単位での精度を上げていく」というもの。それだけだとわかりにくいが、たとえば「10回中、5回のパス成功率なら『あともう1本通せるように頑張ろう』と励ます。その結果、個人のパス成功率が1本分増えただけでも、チーム全員の成功率が上がれば、とてつもない効果が得られる」…と言えば少しはわかりやすいだろう。少々乱暴な言い方をすれば、この理論は、「工場」にたとえることができる。「サイド攻撃』」「ワンタッチパス」「中盤でのボール支配」といった“部品”を製造するにあたり、その部品を磨きに磨き、最高の状態で完成させる。あとは出来上がった“部品”を組み合わせれば「作陽サッカー」という完成品が出来上がる、というわけだ。
また、組織運営もユニークだ。部を「トップチーム」「チャレンジチーム」「ホープチーム」という3つに分割、トップチームに入れていない選手でも、何らかの試合に出場できる組織構造を作り出した(同様の試みはFCバルセロナの下部組織「バルセロナB」やフェイエノールトの下部組織「エクセルシオール」などに見ることができる)。さらに、フットサルチームを作り、Lリーグの「岡山湯郷ベル」を合同練習に招く、といったことから、先の「トップ」「チャレンジ」「ホープ」の3チームそれぞれを交流させ、互いに切磋琢磨を行わせるなど、多角経営的なクラブ運営方法を確立させた。実に独特の手法である。

夜の闇に包まれた夜7時過ぎ。まだグラウンドには自主練習を行う数人の選手が姿があった。

このチームの主将をやらせてもらってます。ポジションは守備の要、センターバック。 このチームの特徴としては、「よくまとまっている」…これに尽きます。今年はずば抜けて巧い選手がいない。その代わりチームワークがいい、これが特徴ですね。野村先生の指導は、自分的に“真”を突いてて納得させられることが多いです。少し厳しいですけど(笑)。 個人的には、Jリークでプレイするのが夢。また主将としては、このチームを全国大会でベスト8以上(全国大会における同校の最高位)に進ませるのが目標です。

自分の兄が作陽サッカー部出身なんですよ。兄の代は全国大会への出場を果たした。弟としては兄を超えたい、ということで僕も作陽を選びました。作陽のサッカーは、さすがに名門ってことで厳しい面もあります。本気で頑張ってかなりいい所まで行っても、気を抜くとすぐに他の選手の抜かれてしまったりとか…でもチーム単位で選任のコーチが付いて教えてくれるので、自分的には納得のいく練習が出来ていると思います。好きな選手は、もうマラドーナとバッジオ以外考えられません。マラドーナの86年W杯の対イングランド戦の5人抜きシーンなんかのDVDを見て興奮してます(笑)。あ、あとこの前、バッジオの200ゴールのDVDも買っちゃいました。

出身は奈良県です。自分のタイプは、根っからのストライカータイプですかね。ゴール前に張り付くタイプではなく、ドリブルで突っかけたりパスに合わせて裏に飛び出すようなタイプです。好きな選手もオーウェンやロナウドみたいな同じタイプの選手ですね。このチームの特徴は、やっぱり野村先生の指導通り「理論のチーム」だと思います。たとえば身体能力で勝る相手にだって勝ててしまうサッカー…そんなチームだと思ってます。野村先生の指導も個人的にはかなりわかりやすい。目標はもちろんJリーグでのプレイ。そして何歳になってもボールを蹴っていたいと思います。

「生徒たちはストーリーテラー(語り部)であって欲しい」……野村先生が語った言葉だ。「ストーリーというのは、それぞれが自分の頭で流れ(先)を読み、その後の展開を読む、というような意味です。一人ひとりがストーリーを編むことで、チーム単位では大きなストーリーになる。それがしっかりした流れになっていくと、初めてアドリブが生まれてくる。ストーリーを個人で持っていれば自分のやるべきことに意味が生まれ、楽しくなる」。つまりは独創性と実行力。そういう自主的な生徒を多く育てたいというのが野村先生の指導者としての目標なのだ。 個性的な指導哲学を持つ、魅力的な先生に率いられた岡山の名門に今後も期待したい。




